怪談「徒然草子」

徒然なるままに、きいぼうどと心にまかせて、古典狂の怪談童話創作家の結果的にここだけの怪しいかもしれない話

子供の顔のにわとり

               子供の顔のにわとり

 

 ヤイチというひどい山賊がいました。

 ヤイチは山に来た物を殺し、物をうばったのです。

 殺された者の中には子供もたくさんいました。

 ヤイチは頭が良かったので、うばった金で商売を始めたのでした。

 商売は上手くいきました。

 そして孫が生まれ、孫にヤイチと名付けたのです。

 孫のヤイチは優しく頭が良かったので教師になりました。

 評判の良い教師でした。

 人々はそんなヤイチが好きでした。

 ヤイチは家の庭で五匹のにわとりを飼っていました。

 ある日、ヤイチが庭に出ると、

「ヤイチにコロサレタ」

「ササレタ」

 恐ろしい言葉をヤイチは聞きました。

 子供の顔をした五匹のにわとりが、

「ヤイチにコロサレタ」

 と人の言葉で話したのです。

 その言葉を近所に住む者も聞きました。

 ヤイチと近所の者が驚いた顔をすると、にわとりは普通の姿に戻りました。

 不気味な話は広まり、子供たちはヤイチの家に来なくなりました。

 ヤイチはまじめで優しいと評判でしたので、ヤイチがやったというものは少なかったのですが、不気味なので人が離れていったのです。

「ヤイチにコロサレタ」

 気味の悪いにわとりが叫びます。

 ヤイチはにわとりを殺そうと思いましたが、殺そうと思ってにわとりの所に行くとただのにわとりがいるだけなのです。

 優しいヤイチはその姿を見て、

「この嫌なことが早く終わるといいな」

 そう言うと、ヤイチは涙を流し、にわとりを抱きました。

 この話に一番おびえたのは、年老いた山賊だった祖父のヤイチです。

 自分の罪がばれるかもしれない、祖父はただ自分のことだけを心配しました。

 にわとりは何度も叫びました。

 人々は孫のヤイチが殺したのじゃないかと噂をするようになりました。

「にわとりなど殺せばいいのに。いいや私が殺せばいい」

 祖父はそう言い、包丁を握り、孫の家に向かいました。

 孫の家に行くと、五人の子供がいました。

 祖父のヤイチが昔殺した子供です。

「にわとりめ、殺してやる」

 ヤイチは叫びます。

「ヤイチヤイチ」

 子供の顔をしたにわとりも叫びます。

 その声を聞き孫のヤイチや人々が庭に集まりました。

 人々は祖父のヤイチが包丁を振り回し子供を追い回している恐ろしい光景を見たのです。

 孫は祖父をおさえました。

 そして、祖父のヤイチはすべてを話したのです。

 孫のヤイチはにわとりを連れて寺に行き、お坊様になりました。

 寺で祈り、そして子供たちに様々なことを教えました。

 その寺では夜に、五人の子供たちに嬉しそうに勉強を教えているヤイチを小僧が見たそうです。

仙人香

  仙人香

 

 竜のよだれのお香で龍涎香といいます。

 龍涎香は鯨が消化しきれなかったイカなどが石となり、それを出したものです。

 そのようなものなので、龍涎香は鯨が出したものを拾うのがふつうです。

 とても貴重なお香です。

 お香を売るその店にはたくさんの龍涎香があり五貫にもなる大きな龍涎香が自慢げに飾れていたのでした。

 その店によく通う老人がいました。

 その老人に店の主人が珍しいものがあると言ったのです。

「ご老人、仙人香というものが手に入りました」

 主人が嬉しそうに桃の香りのする石を持ってきたのでした。

「いい香りだね、あなたの店の物だからとても貴重な物なのだろう」

 老人は珍しそうにそのお香を眺めたのでした。

「これだけ桃のにおいが強いなら材料は桃かね」

 老人が聞きますと、店主はうへへへと笑ったのです。

 その店主は龍涎香を作るのに巨大な鯨を飼っていると噂され気味悪がられていました。

 老人は気分が悪くなり店を出ました。

 その足で老人は物知りの所へ向かったのです。

 その物知りは本がその家の大黒柱として支えている変わった家に暮らしていました。

「よぉ物知りさん、あのお香のお店で仙人香という不気味な物をすすめられたよ。仙人香は桃の香りが強くしたのだがなんだろうね」

 老人が聞きますと、

龍涎香は龍のよだれが固まったものと言われていますが、本当は鯨の食ったものが消化できず固まっただけです。」

 物知りは少し茶を飲み話を続けました。

「龍の物ではないですが、とても珍しい物に変わりはありません。そんな珍しいものを大量に持っているのであの主人は巨大な鯨を飼っていると言われています、鯨はお香を作ることができるのです」

 物知りはまた茶を飲み、話を続けます。

「ある国では桃だけを食べさせて良い香りにした人間を育てているそうです。その人間を食ったり汁にしたりするそうですよ」

 物知りは老人に微笑みました。

「あの不気味な店主はその桃人間を飼っていて鯨に食わせているのでしょうかね。それともその名の通り仙人を食わせたのかも、それとも仙人を桃の木に変えてお香にしたのかな」

 そう言うと物知りはけらけら笑いました。

 老人もけらけらと笑いました。

 しばらくしてその店はうその品を売っていたとしてつぶされました。

 そしてその商品はすべて将軍様へと届けられたと噂されたのでした。

 店主は捕まえることができなかったそうです。

 物知りもどこかへ行ってしまったのでした。

 老人は噂を聞きました。

 店主が鬼の顔の蛇になって、店をつぶしに来た役人を食って逃げたという話を。

 

おいしいね君

  おいしいね君

 

 けんたはニンジンが大嫌いです。

 机には

 けんたへ

 母さんは今日用事があるので、

 ハンバーグを作っておいたから食べてください。

 ニンジンもちゃんと食べてください。

 母より

 と書かれた手紙がありました。

 けんたはニンジンとにらみあいをしていました。

「ニンジンはみなに嫌われているのになぜあるのだろう、嫌われるのがニンジンの仕事なのだろうか」

 けんたがそんなことを考えていると、

「たべてあげるよ」

 と声がしました。

 いつあらわれたのでしょう、

 けんたの目の前に口ばっかりの形をした粘土のかたまりのような物がいたのです。

 けんたがためしにニンジンを与えてみるとその物は、

「おいしいね」

 と言ったのです。

そして、

「苦手なものを食べてあげるよ」

 その物はけんたに言いました。

 けんたは点数の悪かったテストを与えてみました。

「おいしいね」

 その物はそう言いました。

 けんたはその物においしいね君と名前をつけました。

 次は何を与えようか考えていると、

「けんたの嫌いなものを食べたから、次はけんたの大事な物を食べたいな」

 おいしいね君は続けます。

「けんたの嫌いな物も好きな物も全部おいしく食べてあげるよ。」

 けんたはおいしいね君を怖いと思いました。

「猫のヤー

 がんばってお父さんと作ったロボットの模型

 お父さんが買ってくれた帽子

 そうだね、あとは、

 お父さん

 お母さん

 とかかな」

どれもおいしいね君にあげるわけにはいきません。

「もっとおいしいねって言いたいな」

 おいしいね君は言いました。

けんたの頭はぐるぐるしてきました。

「何においしいといえばいいのかな」

 けんたは考えました、そしてある考えが浮かびました。

「次は何においしいねって言えばいい」

 おいしいね君は叫びました。

けんたはおいしいね君に言いました。

「君はきっと僕なのだろう、だから僕にも君にも大事な僕を食べるといい」

 ぱくり

「おいしいね」

 おいしいね君は言いました。

 

「おいしいね」

 けんたはニンジンが大好きです。

天狗娘

  「天狗娘」

 

 天狗がおりました。

 その天狗は村の娘と約束をしていました。

 村を悪い事から守るという約束をしていたのです。

 その村はいつも悪い病気や嵐などの人の力ではどうしようもない事に悩んでいました。

村を守るためには力が必要です。天狗だからと何でも自由にすることはできないのです。

 村を守る力のために天狗は時々白羽の矢を立て、選んだ村人を食いました。

 天狗は嵐や病気から村を守っていたのですが、村人にはそんなことは分かりません。

 村人が知っていることは、天狗は人を食う、それだけです。

 天狗に我慢できなくなった村人は若者を天狗のもとへ行かせました。

「天狗様、お願いですから村人を食べるのをやめてください」

 村人の願いに、

「娘と約束したのでそれはできぬ」

 天狗はそう一言言って飛んで行ったのでした。

 若者は怒りました。

「娘が天狗に村人を食わせている」

 若者の言葉に村人は取りつかれたのです。

 村人達は武器を手に取り娘の家に向かいました。

 天狗はその姿を見て悲しみました。

 村人は娘の家の前に集まりました。

「でてこい、天狗の娘出てこい」

 若者はそう叫びました。

「ゆるさぬ、ゆるさぬ。天狗の娘ゆるさぬ」

「ころせ、ころせ娘をころせ」

 村人達は怒りのままに叫んだのでした。

 娘の家の前で村人達が叫んでいると、娘の家の戸が開きました。

 娘を抱きかかえた天狗が出てきたのです。

「かなしいことだ、かなしいことだ」

 天狗は涙を流しながらそう言うと、娘と共に飛んで行ったのでした。

 そして村は悪い病気に襲われました。

 多くの村人が苦しみました。

 すべてを流すように嵐が来て、村をきれいに流してしまったのです。