怪談「徒然草子」

徒然なるままに、きいぼうどと心にまかせて、古典狂の怪談童話創作家の結果的にここだけの怪しいかもしれない話

伝聞昔話「五色の鹿」(宇治拾遺物語より)

 伝聞昔話「五色の鹿」

 

 昔、天竺でのお話です。
 五色の体と白い角を持った美しい鹿が山の深く深くに暮らしておりました。
 深い所に暮らしていたので人はその鹿のことを知りませんでした。
 そんな山の深いところで鹿は鳥と仲良く暮らしていたのです。
 鹿の暮らしている山には大きな川が流れており、ある日その川に一人の顔に痣のある男が流されてきたのです。

 

 男は空を必死に掴もうと手を振り回し、あてもなく助けを叫んでいました。
「あの男を助けなくていけない」
 鹿が言いますと、
「あの男を助ければ災いがおこるよ、人間は良いものもいるが、悪いものもたくさんいる。だから放っておけばいい」
 鳥は鹿に言ったのです。

 鹿は考えましたがその男を可哀そうだと思ったので助けたのでした。

 

「ありがとうございます。このご恩は絶対に忘れません」
 男は手をすり合わせ感謝したのでした。
「どのようにすればこのご恩に答えられるのでしょうか」
 男が鹿に聞きますと。
「何かして下さるというのですか。それならばこの山に私がいる事を黙っていてください。もし人が私の存在を知れば、私を狩りにやってくるでしょうから」
 鹿は恐れていたのです。
 人が鹿の美しい五色の革を得るために狩にやってくることを、人に存在を知られないために山の深い所で暮らしていたのです。
「決してあなたの事は他言することはありません」
 男は何度も感謝し帰っていきました。


 そんな折、国の后が五色の鹿の夢を見ました。
「私は美しい五色の体の鹿の夢を見ました。その鹿は必ずいるでしょう。美しい五色の鹿の革が欲しいのです」
 后は大王に頼んだのでした。
 大王は后の夢に出てきた五色の鹿の革を持ってきた者には、金銀と財宝それに国も与えようと宣旨を出したのでした。
 鹿に助けられた顔に痣のある男は欲に囚われて、大王に鹿の場所を伝えたのでした。
 そして男は大王と共に狩人を連れて山に向かったのでした。
 命を助けてくれた鹿を殺すために。


 鹿と共に暮らしていた鳥は恐ろしい光景を見ました。
 命を助けた男が狩人を連れ山にやってきたのです。
 男たちは欲に囚われ、まるで醜い鬼のように鳥には見えたのです。
「男が来たぞ、顔に痣のあるあの恩知らずの男が大王と共に狩人を連れてやってきたぞ」
 鳥が洞くつで寝ている鹿のそばで騒ぎました。
 鳥の声に起きた鹿は、
「大王もいるのか、では大王と話をしてみようか」
 鹿の言葉に鳥は、
「あれは人ではない、欲の毒で醜い悪鬼になった者達だ。悪鬼に言葉は届かないのだよ」
 鳥は鹿に悲しそうにそう言ったのでした。
 鹿は鳥に優しく微笑むと大王の前へ翔けていったのです。


 鹿が大王の前につくと、狩人たちは弓を構えました。
 大王は美しく威厳のある五色の鹿の姿を見て欲が浄化されていくように感じました。
「その鹿を射ってはならない。何か話があるのだろう、話を聞きたい」
 大王の言葉で顔に痣のある男は自分が恐ろしい過ちを犯したことに気づいたのです。
「そこにいる顔に痣のある男を私は助けました。そして恩を返したいという男の言葉に、私のことを話さないように言ったのです」
 鹿の言葉に顔に痣のある男はふるえていました。
 大王は鹿の言葉を黙って聞いていました。
 大王は言いました。
「恩を返せぬものは人ではない、その男の首をはねよ」
 顔に痣のある男は鹿の目の前で首をはねられたのでした。
 そして大王は鹿を狩ってはならないと宣旨をだしたのでした。
 五色の鹿も他の鹿たちも平穏に暮らすことができるようになったのです。
 大王の治める国はますます栄えたのでした。

 

聞き伝える昔の話でございます 

 

長い。

宇治拾遺物語さんからです。

宇治拾遺物語のしょーもない話を読むのが最近の癒し。

ではないな。

鹿の事を畜生と呼んでいたのは削りました。

昔の本だなぁって思いますね、畜生って使わないですよね。

 

 

※基本的に聞き伝えるという形で、大筋は変えずに思うままに書いております。