怪談「徒然草子」

徒然なるままに、きいぼうどと心にまかせて、古典狂の怪談童話創作家の結果的にここだけの怪しいかもしれない話

伝聞昔話「愛罰鬼」(雨月物語・青頭巾の下)

 伝聞昔話「愛罰鬼」

 

 一途な阿闍梨がいました。

 その阿闍梨は美童を食いました。

 愛していたから美童の死体を食いました。

 美童のただれた肉をすすり、

 むき出しとなった骨を舐め、

生前と同じようにまぐわいをし、

 食いつくし、

 阿闍梨は鬼になりました。

 

 鬼は墓から屍を出して食い、里の者を襲って食いました。

 

快庵はその鬼に会うため、寂しい山寺に行ったのです。

 その寺は、楼門は荊棘におおわれ、経蔵もむなしく苔が生えていました。

 蜘蛛が仏像と仏像を糸でつなぎ、燕の糞で護摩壇が埋まっています。

 すべてが荒れていました。

 

 快庵は寺に入り、錫を鳴らし、

「編参の僧です。一泊宿りたいのです」

 快庵は何度も叫びましたが、反応がありません。

 しばらくして、痩せこけた僧が出てきました。

「なぜこのような所に来た。このような野良の所で飯はない。それに良くない物がいるかもしれぬ。強いて留めも去れとも言わぬ。御僧にお任せする」

 僧はそう言うと寺に入り、何も言わなくなりました。

 快庵も何も言わず、僧の傍に座ったのです。

 

 宵闇の夜は暗く、灯りもなく、谷川のせせらぎだけが墨のような夜に聞こえていました。

 主の僧は寝室に行き、音一つ立てませんでした。

 子の刻と思われるころ、僧は寝室から出た寺中を走りまわりました。

「あの坊主はどこだ。快庵はどこだ。ぼうず、ぼうずどこへいった」

 僧が叫びながら快庵を探しています。

「あの坊主はどこだ」

 僧は快庵の目の前で叫びます。

 快庵が見えていないように、僧は快庵の周りを踊り狂うように探していたのです。

 その様子を快庵は眠らずに見ていました。

 寺中を探し、僧は疲れて臥したのでした。

 

 夜が明けました。

 僧は快庵に気づきました。

「あなたは一歩も動いていなかったのですね」

 僧は微笑み言いました。

 快庵はうなずきました。

「私のような人の肉を食らう鬼畜には、あなたのような立派な方に敵意を向けたら姿が見えなくなります。生き仏を鬼畜は見ることはなりませんから」

 僧は嘆きました。

「もし飢えているのなら、私を食べればよいでしょう」

 快庵は僧に言いました。

「私のような鬼畜には、僧侶の肉は食えないのですよ」

 僧は笑って言います。

「里の者から話を聞きました。愛欲に迷い鬼になるのは稀な不幸なことです。ただ里に下りて人を襲うのは止めなくてはいけません。あなたと里の者を救わねばならないのです」

 快庵は僧に言いました。

 

「私はあの子を食って鬼になりました。ただれた肉をすすり、骨を舐め、食いつくしました。だがあの子の心は食えなかった。私が食ったのは、あの子がいたという現実を食っただけです。そして、その愚かな行いの罰が人を食うことなのです。鬼となりこの世に閉じこめられたのです」

 僧は言いました。

 

 快庵は僧を簀子の上の平らな石に座らせ、自分の紺染めの頭巾を僧にかぶせ、証道の歌の二句を授けたのです。

 江月照松風吹

 永夜清宵何所為

 ここで、一途にこの句の意味を求めなさい。

 快庵はそう言うと、寺を去ったのでした。

 それから里に鬼が下りてくることはなくなりました。

 ですが、何もわからない里の者たちは山を鬼のいる山として上がるのを禁じました。

 

 一年がたちました。

 快庵は里の者たちと山の寺に行ったのです。

 山寺は一年前よりもひどく荒れていました。

 寺には、髭と髪を乱し、

 江月照松風吹

 永夜清宵何所為

 と唱えている僧が石の上にいました。

 快庵は僧に近づき、

「何のためぞ」

 快庵が一喝し僧の頭を打ち給うと、僧は氷が朝日に会うように消えたのでした。

 そして、青頭巾と骨が草葉のうえに散らばったのでした。

 

聞き伝える昔の話でございます

 

雨月物語・青頭巾より

最後の部分です

最初が

artart1982.hatenablog.com

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青頭巾を考えるのは疲れた…

 

 

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※基本的に聞き伝えるという形で、大筋は変えずに思うままに書いております。