伝聞昔話「観音帷」(宇治拾遺物語より)
伝聞昔話「観音帷又は清水寺御帳賜る女」
ひたすらに清水寺にお参りしている女がいました。
その女には頼る者がなく、人生にご利益もなかったので、観音を恨みながら願をかけていたのです。
もしどんな不幸や不満があったのかを女に聞けば、たっぷり一晩語ってくれるでしょう。
観音様も聞き飽きたと言います。
そんな女です。
「いかなる前世の報いとも、少しばかり頼れるものをお授け下さい」
と女は愚痴を混ぜ混ぜ、よくよく願をかけました。
そして御前にうつ伏しに眠ると、その夜の夢に、
御前よりと、
「かくあながちに申せば、いとほしく思し召せど、少しにてもあるべき便のなければその事を思し召し嘆くなり、これを給われ」
そう言って御帳の帷をきれいに畳んで前に置いたのでした。
女が目を覚ますと、燈明の明かりに夢の通りに御帳の帷が畳んで置いてありました。
「このような帷が何になるのでしょう。これが私に与えられるご利益なのだとしたら、なんとも情けない。なんとも非情」
女は嘆き、この帷は決していただきますまいと睨んだのでした。
「少しでも頼れるものがありましたら錦さえ御帳に縫って差し上げようと思いましたが、この御帳だけいただいて帰ることはできませぬ」
女はそう言うと、犬防ぎの内に差し入れたのでした。
そして再び微睡むと、
「何ど賢くはあるぞ、ただ賜ばん物をば給はらでかく返し参らする。怪しき事なり。」
女が目を覚ますと、同じように帷が畳んで置いてありました。
「お助けを願い。なぜお答えが帷なのですか。ちゃんとご利益をお授けください。やりなおしですよ観音様。次はちゃんとおやりなさいね」
女はそう言うと、先ほどと同じように返したのでした。
そして再び微睡むと、
「この度返し奉らば無礼なる」
怒られました。
女が目を覚ますと、同じように帷が畳んで置いてあったのです。
女は帷をじぃと睨みました。
帷をつんつんと突いたりしました。
「金になれ」
そう言ってみましたが何も変わりません。
「銀になれ、せめて銅」
そう言っても何も変わりません。
「銀ならともかく、銅になってもどうにもならないのだけれどぅも」
女の駄洒落につまらぬと声がしました。
女は帷をふって、
「金よ出ろ、金よ出ろ」
と唱えましたが、何も起きませんでした。
ふと、何も知らぬ僧が、この帷を女が悪さをしたものだと勘違いしたらどうしようと思いました。
僧にも怒られてしまいます。
そう思ったら胸の鼓動が早くなりました。
女は帷を懐に入れ、飛び出したのです。
女はせっかくなので、その帷を着物にして着ることにしました。
すると、女がその着物を着ると、会う人会う人に好意を持たれ、相談に訴訟も上手くいくようになりました。
そして、良い男に出会い幸福に暮らしたのでした。
「観音様に文句言わず、ただただ信じれば御利益があるのです」
女は会う人会う人にそう言ったのでした。
聞き伝える昔の話でございます
宇治拾遺物語から
普通の人には優しい観音様です。
わらしべ長者の主人公も愚痴ったりひどいですが、
優しく対応します
※基本的に聞き伝えるという形で、大筋は変えずに思うままに書いております。