伝聞昔話「腫物女」(今昔物語より)
伝聞昔話「腫物女」
典薬頭で腕の良い医師がいました。
ある日、この頭の家に女性の入った車が入ってきました。
「あなた様はどちら様ですか」
頭が聞いても何も答えず、車は入ってきます。
「何か御用ですか」
頭が聞きますと、
「お願いがあります。他の者に会わない場所を用意していただきたいのです」
甘い女の声がしました。
頭はその声でいい女が来たと喜びました。
頭は女のために人が近づかない部屋をきれいに掃除しました。
頭が女に準備ができたと伝えると、女は扇で顔を隠し、櫛笥を持った童女を連れて用意された部屋に入っていったのでした。
女が出ると車は韋駄天のように去っていきました。
女と頭は向かい合って座りました。
女の年は三十ほどで、頭から足まで色気があり、良い香りと色気が漂っていました。
「どのような用事かな」
頭が聞きますと、
「この世で一番大切なものは命です」
女は言いました。
「その通りですな、医師ですから命の大切さはよく分かるつもりです」
頭は答えます。
「命のために、恥を忘れてあなた様にすべてを任せたいのです」
女は切なく甘い声で言いました。
頭はその甘い声に歯が抜けた顔をしわしわとして笑いました。
女を安心させるための笑顔でしたが、普通の女だったら気を失ったかもしれません。
女はその笑顔に美しい微笑みで答えました。
「お任せください」
頭がそう言うと、女は袴の股立てを引き開けました。
女の両足の付け根には少し腫れたところがありました。
ですが、毛に隠れてよく見えません。
「腫れがありますな、だがよく見えない」
頭はそう言うと、女に袴を脱がせて確認をしたのです。
そして、頭は両足の付け根にできた大きな腫れを確認したのでした。
「私の力でこの病気は治しましょう」
頭は女にさっきと同じ気持ち悪い笑顔で言いました。
頭は七日間、女の治療だけをしたので女の両足の付け根にある腫れは良くなっていきました。
腫れは良くなったので冷やすことはやめ、茶碗に何薬かすりいれた物を鳥の羽を使い五六度腫れにつけるだけになりました。
頭は順調にいっているので、良くないことも考えるようになりました。
「命を救ってもらい、あさましい姿も見せました。私にはあなたは親よりも深く感じます」
女の言葉に頭はとても喜びました。
そして、女は少し体調が悪いと言って寝に行きました。
頭は女がとても愛しく、良い食事を与えたいと思い食事を作りに台所へ行きました。
女は頭が台所へ行ったのを確認したら、童女と一緒に逃げました。
「うまい物を食おう」
頭が声をかけますが、女の返事はありません。
「寝ているのかな」
頭は残念そうに言いました。
女の服と櫛笥が見えたので、頭は一人で自分の分を食べました。
しかし時間がたっても女が出てきません。
頭は女が心配になり確認をすると女がいなくなっているのに気づきました。
女は頭に気づかれないように、薄綿の衣だけで逃げたのでした。
頭は女の美しい姿を思い出し泣きました。
そして、涙ながらにその話を皆にしたので、笑い話としてこの話は広まったのでした。
おもしろい
聞き伝える昔の話でございます
今昔物語から
典薬寮は宮内の医療全般を担当しています。
医者と薬剤師が混ざってるというか、
混ざってたというか。
そこの頭ですからえらいのです。
櫛笥は化粧箱みたいな感じ。
薄綿の衣は寝間着、女は寝間着で逃げたんですね。
言葉でなんか格調高く見えますね。
変な話ですが、ネタ切れにはなってはいません。
ただ一日何回も更新は読むほうもつらかろうと、
更新ペースを探っています。
毎週月曜日には伝聞昔話を一つやりたいと思っています。
それにプラスアルファですね。
※基本的に聞き伝えるという形で、大筋は変えずに思うままに書いております。