怪談「徒然草子」

徒然なるままに、きいぼうどと心にまかせて、古典狂の怪談作家の結果的にここだけの怪しいかもしれない話

伝聞昔話「犬頭糸」(今昔物語より)

    伝聞昔話「犬頭糸

 

 三河の国に二人の妻に養蚕をさせ、儲けていた郡司がいました。

 なぜか本妻の蚕が全部死んでしまいました。

 郡司は本妻が何か悪いことをした祟りだと思い、本妻から離れたのでした。

 郡司が通わなくなり、本妻は二人の従事と共に貧しく心細く暮らしていました。

 蚕は皆死んだと思っていましたが、一匹だけ生きていました。

 

 妻はその蚕を見てうれしく思い育てることにしました。

 蚕は妻の愛情を受け大きく育ちました。

「お前は私の子供のようなものだ。桑の葉を食べ人のように大きくなりなさい」

 妻はそう蚕に言い、郡司が通わなくなり、ぽっかりと開いた時間と心を埋めていたのです。

 

 妻の家には白い犬がいました。

 その犬が蚕を食べてしまったのです。

「なんということ。蚕が食べられてしまった。ただ、蚕を一つ食べたといって犬を殺すのはおかしな話だし、しかたがない」

 妻はそう言い、蚕を食べた犬を悲しそうに恨めしそうに見たのでした。

 

「蚕一匹養えないのでは郡司も通わないわけだ」

 妻はそう言い、蚕がいなくなったこと、蚕一匹も養えない自分に大変悲しみ泣きました。

 

 犬は妻の前に行きくしゃみをしました。

 犬の鼻から美しい糸が一寸ほど出ていました。

 糸をひっぱるとするすると出てきます。

 

「犬の鼻から美しい糸が出てきた」

 妻はそう言うと、犬の鼻の糸をわくに巻き付けたのです。

 糸は不思議なことにどんどん犬の鼻から出てきます。

 二三百のわくに巻き付けても糸はつきることなく出続けたのです。

 桶や巻ける物には糸を巻き付けました。

 糸は四五千両ほどになったのです。

 

 糸がつきた時に犬の命もつきました。

 

「仏神が犬を通して私を助けてくれた。なんとありがい」

 妻は喜び、仏さま、神さまと拝んだのでした。

 その時に、郡司が家に来ました。

 

 郡司は妻の生活が苦しいと聞き様子を見に来たのです。

 妻が美しい糸を家中の物に巻き付けている姿を見ておどろきました。

 郡司は妻の話におどろき、糸の美しさにもおどろいたのです。

「仏や神が助ける人にひどいことをしてしまった」

 郡司は妻に謝り、一緒に暮らすことにしました。

 

 糸を出して死んだ犬を桑の木のそばに埋めると、よい桑の葉が取れました。

 その桑の葉を蚕に食べさせると美しい糸が出来たのです。

 

 糸の美しさはおかしな話と共に有名になり、犬頭と呼ばれたのです。

 そして、犬頭の糸で天皇の御服が作られました。

 

聞き伝える昔の話でございます

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今昔物語より、柳田国男さんの昔話にも入っている話です。

個人的に犬が可哀想と思いました。

 

昔話だと二人の妻ではなく、ご近所さんになって、人間関係がシンプルになります。

 

 

わざわざこのブログに来て下さったあなたを、私は大切に思います。  

※基本的に聞き伝えるという形で、大筋は変えずに思うままに書いております。