怪談「徒然草子」

徒然なるままに、きいぼうどと心にまかせて、古典狂の怪談童話創作家の結果的にここだけの怪しいかもしれない話

自由記述帖「天使の教会」

  自由記述帖「天使の教会」

 

 山の上に教会がありました。

 山の下にある町はとてもにぎやかでしたが、山の上にある教会はとても静かでした。

 今はだれもいない教会に悪魔の少女が素足をぺたぺたと入っていきました。

 誰もいない礼拝堂、天使の少女が蜘蛛の巣で装飾された十字架の下で銀色の粘土のようなものをこねていました。

 「それは何?」

 悪魔が聞きました。

 「これは夢です、白銀のナメクジが溶かした人の夢です。その夢で何かを作っているのです」

 天使が答えました。

「何かって何?」

 悪魔が聞くと天使は優しく微笑んで、

「名はそのものにかかわる人がつければいいので私にはすべてが何かなのですよ」

 悪魔の問いにそう答えました。

 そして天使はナメクジの溶かした人の夢を軽くこねべたりべたりと教会の床に放っていきました。

 するとその放られた物たちはうねりうねりと形を作りながら山の下の町に向かっていきました。

 ぐうと悪魔のお腹が鳴りました。

 二人はふふふと笑い、

「ちょっとお待ちなさいね」

 天使がそう言うと、白ブドウのジュースとチーズに木の実の入ったパンを持ってきました。

「いい名前がつくといいね」

 悪魔はそういいました。

 月明かりの下、人々の寝息の聞こえる中を銀色の人の夢が、名を持たぬ何かがうねりうねりと動いていました。

 

         おしまい

 

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海野十三さん、松本幸四郎さん、井上ひさしさん。

 

文体診断ロゴーン

 

わざわざこのブログに来て下さった貴方を私は勝手に大切に思います。