怪談「徒然草子」

徒然なるままに、きいぼうどと心にまかせて、古典狂の怪談童話創作家の結果的にここだけの怪しいかもしれない話

自由記述帖「金魚草尼」

  自由記述帖「金魚草尼」

 

 五人のお坊様が同じ夢を見ました。

 その夢は地面が光っている夢でした。

 五人のお坊様は夢でみた場所に集まりました。

 五人は力を合わせその場所をほったのです。

 

 その場所にはひつぎが埋まっていました。

 ひつぎの中には美しい尼様がいました。

 その尼様は今まで生きていたように美しく、とても良い匂いがしたのです。

 尼様は一房の美しい花が咲いた金魚草を手に持っていました。

 

 五人のお坊様はそのひつぎを五芒星のように囲み、十月十日祈りました。

 そして、五人のお坊様は金魚草になりました。

 金魚草に囲まれたひつぎの中から尼様が出てきました。

 尼様が生き返ったのです。

 尼様は手に持った金魚草をふところに入れ、山を下りて村に行きました。

 

 尼は村に着くと、

「どなたか一晩とめていただきたいのです」

 尼がそう言うと、

「今晩は我が家に来ればいい」

 一人の村人が言いました。

 その家は、主人とその嫁に子供が三人いました。

 家の者はていねいに尼様をもてなしたのでした。

 尼様の美しい笑顔を見ただけで家の者は幸せになったのでした。

 

 次の日、家族が消えました。

 家の中には五本の金魚草が生えていました。

 村人は不思議なことがあるものだと思いました。

 その日は一人で暮らしている男の家にとまりました。

 

「金魚草は好きですか」

 尼様は聞きました。

「悪い仏様がいましてね、悪いお坊様を罰として金魚草にしたのです。お前はくだらない人間だから金魚草になって人の目を喜ばせろと。ひどい話です」

 尼は微笑み話をつづけます。

「くだらないって何でしょうね。私はすべてがくだらないと思うのですよ。この世の罪の大きさが違うだけで皆が悪人でしょう。皆が鬼でしょう。人間はただくだらない」

 尼様がそう話すと、男の手のひらに金魚草の花が一輪咲いていました。

 男が何かを話そうとしたら男の舌が一輪の金魚草になったのです。

 男の姿を、鬼の顔になった尼様が恐ろしい笑顔でながめていました。

 次の日です、男の家に一本の金魚草が咲いていました。

 男はいませんでした。

 その村には人が一人もいません。

 ただ、その村にはたくさんの金魚草が咲いていました。

 

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海野十三さん、坂口安吾さん、麻生太郎さん。

 

文体診断ロゴーン

 

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