怪談「提灯」
怪談「提灯」
たそがれ時はいつもぼんやりしています。
昼と夜が混ざり合って、夜になっていくので、たそがれ時はいつもぼんやりとしているのです。
人でない、動物でないものはお日さまが苦手ですから、たそがれ時にやってきて夜にかっぱつに動きます。ゆらんゆらんと、ひとおつ、ふたあつとたそがれ時に夜のものはやってきます。
なので、夜になると、人は自分が夜のものでないと証明するために提灯という小さなお日さまを手に持って夜を歩くのです。ただ提灯はお日さまの代わりにするにはあまりにも小さいので、夜のものもたまに提灯を持って人のように夜を歩くのです。
蕎麦屋の屋台が真夜中に帰るしたくをしていた時です。ひとつの提灯が屋台に近づいてきました。
そのものは、着物をゆったりとだらしなく着て、ゆらんゆらんと提灯を持って歩いていました。そのものは鼻がとても低く、目が少し離れすぎているような気がしますし、口が大きすぎるので人ではないと思われました。
「お前さんは何ものだい」
蕎麦屋の主人が聞きました。
「何だろう。私は何だろう」
その物はゆらんゆらんと答えます。
「なりたいものになればいい、俺は人だと言って見な」
蕎麦屋がそう言うと、
「ああ、私は人じゃない。ひとなんてまっぴらだ」
そのものは、
うかうかうか
と笑い、とけてしまいました。
「ああ、嫌なものを見た」
主人は家に帰ることにしました。
うかうかうか
うかうかうか
わざわざこのブログに来て下さった貴方を私は勝手に大切に思います。