怪談「漆の箱」
怪談「漆の箱」
それは蒸し暑い夜中の話です。
男は変なものを見ました。それは人に見えるのですが、何かがおかしいのです。着物を着たおかっぱ頭の女のようなものが、漆の箱を持って、ゆらんゆらん、ふらんふらんと歩いています。
そのものは男に近づいてきました。
「この美しい箱に何が入っているか分かるか」
そのものは男に聞きます。
「この美しい箱には何がふさわしいだろうか、美しい櫛、鋏、毛抜き、鏡、かんざし、美しい和紙を入れてもいい。この中に美しいすずりを入れるのも素敵だろう。この美しい箱に何が入っているのか分かるか」
そのものは聞きました。そして、漆の箱をしゃかりしゃかりとふりました。
「この音は何故するか分かるか。何が入っているからこの音がするか分かるか。ぼろぼろのひな人形、筆、愚痴だらけの恋文、石鹸、呪いの言葉で埋まった恋文、出来の悪い折り紙の鶴、へたくそな歌、何が入っていると思う」
そのものはしゃかりしゃかりと漆の箱をふりながら、男に聞いたのでした。
そして、
「中身は糞だ、これは糞箱だ」
そのものはそう言うとその箱を男に投げつけたのでした。
「きれいなきれいな漆の箱、私には手に入らない漆の箱。中身は糞だ糞だらけ」
そのものはそう歌いながら消えたのでした。
中原中也さんっぽいのは、糞だ、糞箱だの部分ですかね。
わざわざこのブログに来て下さった貴方を私は勝手に大切に思います。