伝聞昔話「ちんちん小袴」(小泉八雲より)
伝聞昔話「ちんちん小袴」
日本では家の床に、いぐさを編んで作った畳という敷物を敷きます。
畳はいぐさがしっかり詰められて編んでいるので、小刀の先が刺さる程度のすきましかありません。
畳は一年に一度取り換えられるので、とても清潔です。
日本人は靴をはかず、しかも家の中では靴の代わりのわらじは脱ぎます。
西洋のように大きな机やいすもありません。
畳の上で過ごします。
日本人は物を大切します。
幼い女の子用の百年前の人形がきれいに残っていると言えばどれだけ物を大事に使うか想像できると思います。
皆がそうかって思いましたか。
だらしのない子もいますが、だらしのない子は畳の妖精がしつけをするのです。
その妖精たちは電柱や鉄道におびえてどこかへ行ってしまいました。
まだ彼らがいたころのお話です。
顔立ちは良いのですが、ものぐさな女の子がいました。
その女の子はお金持ちの家の子だったので、自分でしなければならないことも奉公人にまかせていました。
その子はそのまま成長し、結婚をし妻となったのでした。
その家はしっかりした武士の家でしたが、奉公人がほとんどいませんでした。
家事を自分でしなければいけないと思い目まいがしましたが、その武士は遠征が多かったので、武士のいる間だけしっかりやり、武士が遠征に行くと、おもいっきりだらしなくしたのでした。
武士の親は年老いて温厚だったので、その姿をしかりませんでした。
ある晩です。
ちんちん小袴
夜も更けそうろう
お静まれ姫君
やぁ、とんとん
そんな歌を歌いながら踊る親指の先ほどの小人たちが妻の枕元にあらわれたのです。
その小人たちは武士のようにかみしもという、肩を四角く張った服に、頭にはまげを結い、腰には二本の刀を差していました。
そして、あかんべぇと舌を出し、わらいながら何度もその歌を歌ったのでした。
「なんだこのおかしな者たちは」
妻は最初その姿を馬鹿にしていると怒りましたが、ふと、えたいの知れなさに恐怖を感じ、恐ろしくてたまらなくなったのでした。
その小人たちは毎晩あらわれ、妻は恐怖から体調をくずしました。
武士が帰ってくると体調をくずしている妻におどろきました。
武士は妻から話を聞き、その小人たちを何とかすることにしたのでした。
その晩です。
ちんちん小袴
夜も更けそうろう
お静まれ姫君
やぁ、とんとん
小人たちが畳からあらわれました。
武士はその小人たちの姿に笑い出しそうでしたが、おびえる妻を見て、何とかしなければと思いました。
武士は鬼も悪霊も刀には弱いことを思い出し、小人たちを切りつけたのでした。
切りつけられた小人たちはつまようじになりました。
「なんだこれは」
武士は散らかっているつまようじを見て言いました。
妻の方を見ると恥ずかしそうに顔をそむけています。
武士は妻を見て知りました。
あの小人たちは妻が片付けるのをさぼって畳の間に入れたつまようじだったのです。
だらしのない妻に畳が怒ったのでした。
妻は朝までたんと武士に怒られたのでした。
聞き伝える昔の話でございます
※基本的に聞き伝えるという形で、大筋は変えずに思うままに書いております。
わざわざこのブログに来て下さった貴方を私は勝手に大切に思います。