怪談「徒然草子」

徒然なるままに、きいぼうどと心にまかせて、古典狂の怪談童話創作家の結果的にここだけの怪しいかもしれない話

おいしいね君

  おいしいね君

 

 けんたはニンジンが大嫌いです。

 机には

 けんたへ

 母さんは今日用事があるので、

 ハンバーグを作っておいたから食べてください。

 ニンジンもちゃんと食べてください。

 母より

 と書かれた手紙がありました。

 けんたはニンジンとにらみあいをしていました。

「ニンジンはみなに嫌われているのになぜあるのだろう、嫌われるのがニンジンの仕事なのだろうか」

 けんたがそんなことを考えていると、

「たべてあげるよ」

 と声がしました。

 いつあらわれたのでしょう、

 けんたの目の前に口ばっかりの形をした粘土のかたまりのような物がいたのです。

 けんたがためしにニンジンを与えてみるとその物は、

「おいしいね」

 と言ったのです。

そして、

「苦手なものを食べてあげるよ」

 その物はけんたに言いました。

 けんたは点数の悪かったテストを与えてみました。

「おいしいね」

 その物はそう言いました。

 けんたはその物においしいね君と名前をつけました。

 次は何を与えようか考えていると、

「けんたの嫌いなものを食べたから、次はけんたの大事な物を食べたいな」

 おいしいね君は続けます。

「けんたの嫌いな物も好きな物も全部おいしく食べてあげるよ。」

 けんたはおいしいね君を怖いと思いました。

「猫のヤー

 がんばってお父さんと作ったロボットの模型

 お父さんが買ってくれた帽子

 そうだね、あとは、

 お父さん

 お母さん

 とかかな」

どれもおいしいね君にあげるわけにはいきません。

「もっとおいしいねって言いたいな」

 おいしいね君は言いました。

けんたの頭はぐるぐるしてきました。

「何においしいといえばいいのかな」

 けんたは考えました、そしてある考えが浮かびました。

「次は何においしいねって言えばいい」

 おいしいね君は叫びました。

けんたはおいしいね君に言いました。

「君はきっと僕なのだろう、だから僕にも君にも大事な僕を食べるといい」

 ぱくり

「おいしいね」

 おいしいね君は言いました。

 

「おいしいね」

 けんたはニンジンが大好きです。