怪談「徒然草子」

徒然なるままに、きいぼうどと心にまかせて、古典狂の怪談童話創作家の結果的にここだけの怪しいかもしれない話

仙人香

  仙人香

 

 竜のよだれのお香で龍涎香といいます。

 龍涎香は鯨が消化しきれなかったイカなどが石となり、それを出したものです。

 そのようなものなので、龍涎香は鯨が出したものを拾うのがふつうです。

 とても貴重なお香です。

 お香を売るその店にはたくさんの龍涎香があり五貫にもなる大きな龍涎香が自慢げに飾れていたのでした。

 その店によく通う老人がいました。

 その老人に店の主人が珍しいものがあると言ったのです。

「ご老人、仙人香というものが手に入りました」

 主人が嬉しそうに桃の香りのする石を持ってきたのでした。

「いい香りだね、あなたの店の物だからとても貴重な物なのだろう」

 老人は珍しそうにそのお香を眺めたのでした。

「これだけ桃のにおいが強いなら材料は桃かね」

 老人が聞きますと、店主はうへへへと笑ったのです。

 その店主は龍涎香を作るのに巨大な鯨を飼っていると噂され気味悪がられていました。

 老人は気分が悪くなり店を出ました。

 その足で老人は物知りの所へ向かったのです。

 その物知りは本がその家の大黒柱として支えている変わった家に暮らしていました。

「よぉ物知りさん、あのお香のお店で仙人香という不気味な物をすすめられたよ。仙人香は桃の香りが強くしたのだがなんだろうね」

 老人が聞きますと、

龍涎香は龍のよだれが固まったものと言われていますが、本当は鯨の食ったものが消化できず固まっただけです。」

 物知りは少し茶を飲み話を続けました。

「龍の物ではないですが、とても珍しい物に変わりはありません。そんな珍しいものを大量に持っているのであの主人は巨大な鯨を飼っていると言われています、鯨はお香を作ることができるのです」

 物知りはまた茶を飲み、話を続けます。

「ある国では桃だけを食べさせて良い香りにした人間を育てているそうです。その人間を食ったり汁にしたりするそうですよ」

 物知りは老人に微笑みました。

「あの不気味な店主はその桃人間を飼っていて鯨に食わせているのでしょうかね。それともその名の通り仙人を食わせたのかも、それとも仙人を桃の木に変えてお香にしたのかな」

 そう言うと物知りはけらけら笑いました。

 老人もけらけらと笑いました。

 しばらくしてその店はうその品を売っていたとしてつぶされました。

 そしてその商品はすべて将軍様へと届けられたと噂されたのでした。

 店主は捕まえることができなかったそうです。

 物知りもどこかへ行ってしまったのでした。

 老人は噂を聞きました。

 店主が鬼の顔の蛇になって、店をつぶしに来た役人を食って逃げたという話を。