おに雪
おに雪
おに雪という美しい尼がいました。
その尼はある村で一晩男の家にとまりました。
「あなたはとても美しい、もし、できるのならば私の妻になってくれませんか。一人では何かと不便なのです。助けると思って妻になっていただきたいのです」
男はおに雪に頼みました。
「私を愛することが出来れば妻になりましょう」
おに雪はそう言うと、立ち上がり、着物をはだけさせ、上半身裸になりました。
うわぁぁぁ
男はおに雪を見て叫びました。
おに雪の胸には黒く干からびた腕が食い込んでいたのです。
そしてその腕はゆっくりと動いていました。
「ひとつ物語をしましょう」
おに雪は語り始めました。
おに雪は昔、お侍様の家で働いていました。
その時はおに雪ではなく、沙雪と呼ばれていました。
そのお侍様には病気の妻がいました。
お侍様はその妻のためにあらゆることをしましたが、効果はありませんでした。
妻は沙雪を呼びました。
「私はもう長くありません。私が死んだらあなたに私の代わりをやってほしい」
妻は消え入りそうな声で、沙雪に頼みました。
「おやめください。奥様は治ります。それに私はあなたの代わりになるつもりはありません」
「ダマレダマレ」
沙雪の言葉を聞くと、妻は叫びました。
沙雪には妻が鬼に見えました。
さっきの叫びがうそのように、妻は穏やかな顔になりました。
「あなたにお願いがあります。庭の薄墨桜を見たいからあなたに背負って薄墨桜の下まで連れて行ってほしいのです」
妻は沙雪に頼みました。
さ雪が妻を背負うと、妻は着物の背中から手を入れ、強く沙雪の胸を掴みました。
うぅと沙雪は苦しくてうめきました。
妻の髪は逆立ち、牙が生え、沙雪に体を食い込ませていきます。
「お前に旦那様は渡さない。お前の桜は私が、私の恨みがむしばむのだ。くかかかかか」
妻は笑いながら死にました。
お侍様たちは沙雪から妻をはがそうとしましたが、食い込んではがせませんでした。
お侍様は急いで医者を呼びました。
そして、医者は妻の体を切って沙雪からはがしましたが、手だけははがせなかったのです。
「そして、私は尼になり沙雪からおに雪となったのです」
おに雪はそう言うと、
くかかかかか
と笑ったのでした。