怪談「徒然草子」

徒然なるままに、きいぼうどと心にまかせて、古典狂の怪談童話創作家の結果的にここだけの怪しいかもしれない話

箱の中

  箱の中

 

 

 お坊様が橋の途中で、箱を手に持った美しい青い着物を着た女に会いました。

「お坊様、この箱を隣町の橋にいる女に渡して欲しいのです。隣町へご用事があるでしょう。そのついでで構いません」

 女はお坊様に言いました。

 お坊様はその言葉を怪しいと思いました。

 この女はなぜ隣町へ行くと知っているのでしょう。

 お坊様が女を怪しんでいると、猫が女の体を何もないように通り抜けました。

 お坊様はこの女が鬼だと確信しました。

「それは構いませんが、橋の上の女性だけでは違う人に渡すかもしれません。名前などを教えてください」

「わかりますよ。ただ箱の中は絶対に見てはいけません。それはあなたのためです」

 お坊様の言葉に女がそう答えると、女は消えてしまいました。

 そして、お坊様は女が持っていた箱をいつの間にか手に持っていたのでした。

 お坊様はとりあえず箱を寺に持って帰ってみることにしました。

 怪しい物なので、お坊様は箱を隠しておくことにしました。

 しかし、そのお坊様の姿を童が見ていたのです。

「あのように隠すのは貴重だからだろう」

 童はそう言うと、お坊様がいなくなるのを待ち、箱を取り出して中を見たのでした。

 わぁぁぁ

 箱の中身を見た童は叫びました。

 箱の中には目玉がいくつも入っていたのです。

 その叫び声を聞いてお坊様が飛んできました。

「なんと愚かなことを、なぜ勝手に開けるのだ。それは鬼が持っていた箱だ」

 お坊様は童を責めました。

 ただ、開けてしまったものはどうすることもできません。

 次の日お坊様はその箱を持って、女の言った隣町の橋に行きました。

 橋の上には紫の着物を着た美しい女がいました。

「あなたも私以外に見えない女性ですか」

「箱の中を見ましたね」

 お坊様の問いに女は答えず、箱の中を見たことを責めました。

「わざとではありません。それに箱の中をこれ以上探る気もありません」

 お坊様が言いますと、

「その箱の中にあるのはお前の目玉なり」

 女はそう叫びました。

 すると、お坊様の手の中か箱が消えていました。

 そして、女も消えていたのです。

 お坊様が寺にかえると体調が悪くなりました。

 寺の者が皆で祈り、良い医者を呼びましたが、お坊様はなくなってしまったのでした。

 お坊様の目はなくなっていたそうです。