怪談「徒然草子」

徒然なるままに、きいぼうどと心にまかせて、古典狂の怪談童話創作家の結果的にここだけの怪しいかもしれない話

けけけ尼

  けけけ尼

 

 えらいお坊様とは欲を自分からはなすことができた者だと言います。

 女性と一度も会わないために生まれてから一度もお寺から出なかったお坊様もいたそうです。

 そのお坊様はお米を麦を一度も食べたことがありませんでした。

 葉や根っこを食べて修行をしていたのです。

 ある日、お坊様は山で道に迷いました。

 それもなにかの縁かもしれないとお坊様はただただ山を迷っていたら、小さいですがきれいなお寺につきました。

 そのお寺はよく手入れされていて、まるで宝玉のようにかがやいて見えたのです。

 お寺の中には尼様の死体がおりました。

 その死体は美しくとても良い香りがしたのです。

 お坊様が尼様に近づくと、それは尼様の死体ではなく人形だったのでした。

 お坊様はこのお寺が気に入ったのでここで修行をすることにしたのでした。

 お坊様はそこで千日修行をしました。

 その間、お坊様は尼様の人形をずっとそばに置き、夜は並んで寝たのでした。

 その修業はとても楽しく、まるで極楽にいると感じたほどです。

 お坊様が目を閉じ深く深く瞑想をする姿を尼様の人形は歯を見せるように笑いながら見ていました。

 そして千日修行をしたお坊様は尼様の人形を連れて山を下りました。

 お坊様が寺に戻ると寺の者たちは大変喜んだのでした。

「お坊様、いったい山で何を食べて過ごしていましたか」

 ふと小僧がお坊様に聞きますと、

「あの寺にいる間は不思議と腹が減らなくてな、何も食べていない」

 お坊様はそう答えました。

 小僧たちは立派なお坊様はすごいものだと感心したのです。

 小僧たちが尼様の人形に近づくと、

 けけけ

 という声を聞いたような気がしました。

 翌日、お坊様は尼様の人形の横で安らかな顔で死んでいたのでした。

 お坊様の葬式の間、けけけという声を人々は聞きました。

 そして村に町に国にと悪い病気が流行ったのです。

 尼様の人形は真っ赤になり牙を見せて笑っていました。