うけけ様
うけけ様
うけけ様が笑えば金持ちになる、うけけ様が笑えば神通力が手に入る、うけけ様は金のうんちをする。
山の上にいるうけけ様と呼ばれるお地蔵様にはいろんな噂がありました。
うけけ様のいる場所は山の上なので夏でも涼しく暑さにたえられなかった者が涼みに来ることがよくありました。
せみの声が騒がしい夏の日です、暑さから逃げるように二人の若者がうけけ様のそばで涼んでおりました。
心根の優しいイキチとらんぼう者のクマジロウ、二人の性格は合いませんでしたが年が近かったので昔からよく一緒にいたのです。
二人が涼んでいるとウメばあさんがやってきました。
ウメばあさんはうけけ様を一目見るとすぐに村の方へ引き返そうとしました。
「ウメばあさん、なぜこんな暑い日にうけけ様の顔だけ見てすぐ帰ろうとする」
クマジロウがばあ様に聞きますと、
「わしのじい様は百五十まで生き、となり村に住むわしのおやじ様は今百三十にもなる。おやじ様が言うにはうけけ様の首がなくなった時に村が水の底に沈んだということじゃ、またうけけ様の首がなくなったらと心配でならないからたまに見に来ているのじゃ」
ウメばあさんがそう言いますと、
「もし、うけけ様の首がはずれたら教えておくれ、皆で共に逃げるから」
クマジロウの言葉に、
「当り前じゃ、かならず皆に教えるわい」
そう言うとウメばあさんは村に帰っていったのでした。
「おかしな話だ、ウメばあさんのおやじ様もじい様も化け物みたいに長生きだ、それにうけけ様の首は一度もはなれたことはないだろう。こんなにもしっかりついている」
イキチはそう言うと、うけけ様の頭をつかみました。
「そうだひまつぶしに、うけけ様の首をはずしてウメばあさんを驚かしてやろう。どんなにしっかり頭がついていようとおもいきり蹴とばせばはずれるだろう」
クマジロウがうけけ様の頭をおもいきりけろうとした時です。
うけけけけけ
うけけ様が笑ったのです。
うけけけけけ
笑いながらうけけ様の頭は飛んでいってしまったのでした。
二人はまるで雪の中に閉じこめられたように真っ青になりました。
「うけけ様が笑ったな、良いことがあるだろう、きっとすごい事がおこるぞ」
クマジロウは声と体を震わせながらハハハと力なく笑ったのでした。
翌日、
「うけけ様の首がはずれた、村が沈むぞ村が沈むぞ」
ウメばあさんは村中を叫びながら走っていました。
村人たちはそんなウメばあさんを笑ったのでした。
クマジロウは泣きそうな顔でウメばあさんを村人といっしょにうけけと笑っていたのでした。
イキチはウメばあさんが家の物をまとめるのを手伝いました。
そしてこれだけの荷物はばあ様には重たかろうと思い一緒にとなり村まで行くことにしたのです。
二人が隣村についた晩のことです。
竜のような雨雲が怒り狂うように雨と雷を村中に暴れさせたのです。
ごぉごぉという恐ろしい嵐の音と共に
うけけけけけ
うけけけけけ
という声を村人たちは聞いたといいます。
嵐は何日も続き村人と村は水の底にしずんでしまったのでした。
イキチがうけけ様の所に行きますと、うけけ様の首はまるで一度もはずれたことないようにきれいになっておりました。
「うけけ様はクマジロウのような顔をしていたのだな」
イキチはそうつぶやきました。
そしてイキチはお坊様になりうけけ様のそばで一生を暮らしたのでした。