鹿の革
鹿の革
鹿の革をかぶった男がいました。
男は名をニカンというお坊様でした。
ニカンは鹿の革をかぶって弓で射られようとしていたのです。
カツキという男がいました。
その男は猟の才能があり、必要とする以上に狩りをしていました。
照射と書いてともしと読む、夜に鹿を明かりにさそい、さそわれた鹿を弓で射る遊びに夢中だったのです。
鹿が誘われると、
「さそわれたな」
カツキはそう言うと鹿を射るのです。
その姿をニカンはとても悲しんでいました。
鹿たちはカツキに狩られるのを恐れていました。
ある晩、一匹の立派な鹿がニカンの前にあらわれました。
鹿はある晩のことを思い出していました。
「カツキを止めないといけない。命で遊ぶのを止めないといけない」
鹿はニカンに言いました。
「私には良い考えがありません」
ニカンが言うと、
「あなたが私の革をかぶり、カツキに射られるのです。そうすればカツキも自分がどんな恐ろしいことをしてきたかわかるでしょう」
鹿はニカンにそう言ったのでした。
ニカンは鹿の言うとおりに鹿を殺し、鹿の革をかぶってカツキに射られることにしたのです。
ニカンは鹿の革をかぶり、カツキの弓の的になるように近づきました。
「イレイレ、イレイレ私を射殺せ」
ニカンはそう唱えていました。
カツキはニカンを見て、
「立派な鹿だが何かおかしい。あの鹿の目は何かが違う気がする」
カツキはそう言うと、弓をしまいました。
カツキは猟の師匠から夜は変なものに会うから、会ったら何もするなという言葉を思い出し、家に帰ったのでした。
次の日です。
「昨日の話だ、変な鹿を見た。変だったので帰ったよ。あんな変なものに二日続けて会うことはないだろう」
カツキはニカンに言ったのです。
カツキはそれから何度もその変な鹿を見たのです。
「イレイレ、イレイレ私を射殺せ」
ニカンはそう唱えながら、カツキが自分を射るのを待っていました。
カツキはニカンに近づいてきました。
「ニカンか、お前何をやっているのだ」
カツキはニカンに気づきおどろきました。
ニカンは革をぬぎました。
ニカンは涙を流しながら、鹿との話をしたのです。
「もしお前さんが私を射れば、命で遊ぶことの悲しさを知るだろう」
ニカンは涙を流しながら言いました。
カツキは矢をすべて折りました。
ニカンのぬいだ鹿が生き返ったのです。
二人は立派な鹿をただながめていました。
「さそわれたな」
鹿はそう言うとカツキをつぶしたのです。