思いが鬼
思いが鬼
言葉には力があります。
それを言霊といいます。
言葉に力があるのは、言葉につよい思いがあるからです。
月があやしい夜の話です。
男が歩いていると、青い着物を着た女がうろうろとしているのを見ました。
こんな時間におかしいと男は思いました。
そして、男が女をよく見ようとしたら、女が男の顔をみてにやあと笑いました。
男は、この女は鬼かなにかだろうと思い、まずい奴に会ったと思いました。
「すいません、私は扇屋のカロウエモンという男の家を探しています」
女は男に言いました。
男がだまっていると、女は男に近づいてきました。
女は女のひたいと男のひたいをくっつけ、大きく目を開き男を見たのでした。
「カロウエモンの家はどこでしょうか。扇屋なので分かりやすいと思いますが」
女は男に聞きます。
男はおそろしくてたまりませんでした。
「ああ、ただとは言いません。教えくれたら明日油屋に来てください。私は油屋の娘です。お礼をさしあげます」
女は目を大きく開き、男に言ったのでした。
「聞く必要ないだろう、聞いてどうするのだ、どうなるのだ」
「カロウエモンがどうなるのか心配なのですか。あなたはカロウエモンの知りあいでしょうか。カロウエモンの家を教えてくれれば良いお金になるのですよ」
男の言葉に女は息をあらくして答えたのでした。
「私たちはずっと扇屋の前にいるではないか」
男はいやな汗を滝のように流しながら言いました。
「ありがとう。教えてもらわないと入れないのです」
女はそう言うと、かき消すようにきえていったのでした。
そして、男は扇屋から叫び声を聞いたのでした。
次の日、男は油屋へ行きました。
油屋には昨日の夜見た女がいました。
男が昨日会ったこと話すと、
「私の思いが鬼となってあの男の所に行ったのでしょう。約束どおり礼をしましょう」
と女は男に言って、
かかかかか
と笑い、男に五十両を渡したのでした。
男はその五十両を見つめ、
「昨日の夜のは夢だ」
男はそう言うと、五十両をふところにしまったのでした。