怪談「徒然草子」

徒然なるままに、きいぼうどと心にまかせて、古典狂の怪談童話創作家の結果的にここだけの怪しいかもしれない話

くろくち

  くろくち

 

 ウツキという名の男が夢を見ました。

 その夢は変わった夢だったので、蕎麦屋で隣にいた老人に話しました。

 老人はその夢を蕎麦一杯で買いました。

「いい物を買った」

そう言うと、老人は鬼になりました。

そして、鬼は飛んでいきました。

 それから、ウツキは怪しい者を見るようになりました。

 その物は三尺ほどで、黒い人の形に口だけの姿でした。

 ウツキがその物の方を見ると、かちかちと音を立てました。

 それはウツキのかげのように後をついてくるのです。

「変な物がついているよ」

 友人が言うと。

「あぁ、こまっている」

 ウツキは答えました。

 はじめは、ただついてくるだけでした。

ですが最近ウツキはよくかちかちという音を聞くようになりました。

 かちかちという音はただただきみが悪く、不快でした。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

 ウツキはただくりかえしていました。

 ウツキの前に一匹の白い犬があらわれました。

「ウツキがくろくちに好かれたそうな」

 白い犬はそう言ったのです。

 かちかち

 かちかち

 くろくちは楽しそうにならしました。

 ウツキは好かれたということは、不気味だがなつかれているのかと考えました。

「くろくちは人が好物だからな」

 とさっきの犬は言ったのです。

「うわぁぁ」

 ウツキは叫び家まで走りました。

 ウツキが飛び込むように家に入ると、

 かちかち

 かちかち

 家の中ではくろくちがウツキを待っていました。

 ウツキはどうしていいのか分からないので、

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

 と唱えながらくろくちと過ごしました。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」」

 そう唱えながら、ウツキはくろくちが枕元にいましたが疲れていたので眠りました。

 かちかち

 かちかち

 くろくちは音を立てていました。

 ウツキはその夜に夢を見ました。

 その夢の通りに山の中にある壊れかけた寺に行きました。

 寺にはあの鬼がいました。

「何しに来たのかね」

 鬼がウツキに言いました。

「お前さんに夢を売った前の晩、私は夢を見た。悪い鬼が気まぐれにお前を不幸にしようとしているから、これから話す夢を鬼の化けた老人に売れと、そう仏様に言われた」

 ウツキの言葉に鬼はあわてました。

 くろくちは

 かちかち

 かちかち

 と音をたてていました。

「悪いね、お前さんに売った夢は見ていないのだ」

 男がそう言うと、くろくちは消えました。

鬼は叫びながら消えました。

鬼は悪い夢を買ったので、悪夢にとじこめられたのです。

「夢など買うからだ」

 男はそう言いました。

 かちかち

 かちかち

 どこからでしょうか、音がしました。