怪談「徒然草子」

徒然なるままに、きいぼうどと心にまかせて、古典狂の怪談童話創作家の結果的にここだけの怪しいかもしれない話

伝聞昔話「悪霊左府」(宇治拾遺物語より)

    伝聞昔話「悪霊左府」

 

 御堂関白殿は法成寺を建立し、毎日御堂へ可愛がっていた白い犬と共に参っていました。

 ある日、門を入ろうとしたときに、この犬が前をふさぐようにほえます。

「どうした、中へ入れないではないか」

 君が車からおりて入ろうとすれば、衣の裾にかみつき入れないように邪魔をします。

「犬がこんなに騒ぐとは、何かがあるのだろうか。安倍晴明を呼べ」

 君はそう言うと、榻を持ってこさせ座ったのです。

 晴明はすぐに参上しました。

 

 君はあったことを晴明に話すと、晴明は占いました。

「君を呪詛する物が道に埋まっています。犬は神通力があるので、おしたいしている君にその存在を伝えその上を通らないようにしたのでしょう」

 晴明は言いました。

「それはどこか、見つけ出せ」

 君が言うと、すぐにと晴明は答え、占ったのです。

 

 晴明が言った場所を五尺ほど掘れば、土器を二つ打ち合わせて、黄色の紙をひねった物で十文字に絡げてありました。

 その土器を開けてみると、中には何もなく土器の底に朱い砂で一文字が記されていました。

 

「呪か、私を嫌っている者がやったのだろうな。米に群がる鼠のように、蔵の宝が増えると増えた分だけ敵が増えるからな、多すぎて見当がつかぬ」

 呪を見て君が言いました。

 晴明はそれを見て、

「このような呪を使う者は大変少ない。道摩法師の可能性が高いでしょう。まぁ、呪を使った本人に聞いた方が早いでしょうがね」

 

 晴明はそう言うと、懐から紙を出して、鳥の姿に引き結び、呪をかけて

「災いを好む、あほうの所へ行け」

晴明はそう言って、紙を空へ投げると、その紙は白鷺となって南の方へ飛んで行ったのでした。

 

「この鳥の落ちる所に呪を使った者がいる」

 晴明の言葉にしたがい、下部は白鷺を追いました。

 白鷺は六条坊門万里小路付近の古い家の諸折戸の中へ落ちたので、下部はその主人の老法師を捕らえて戻りました。

 

「この呪詛は堀川左大臣顕光公の命によって行われたのです」

 老法師は答えました。このようなことは二度とするなと、強く言って老法師を本国播磨に追放したのです。

 そして、顕光公は死後に悪霊となり悪霊左府と呼ばれたのでした。

 今回で白い犬は今以上に大事にされたのでした。

 

 聞き伝える昔の話でございます

 

 

宇治拾遺物語より

安倍晴明さんです。

 

 

わざわざこのブログに来て下さったあなたを、私は大切に思います。 

※基本的に聞き伝えるという形で、大筋は変えずに思うままに書いております。