伝聞昔話「美童食阿闍梨」(雨月物語・青頭巾の上)
伝聞昔話「美童食阿闍梨」
これから不思議な話をいたしましょう。
美童と阿闍梨の恐ろしくも悲しい話でございます。
美童を愛し食った阿闍梨の話でございます。
男は快庵に村に起きたことを語り始めました。
この里の山の上に寺がございます。
その寺は昔、小山氏の菩提寺でございました。
ですから、代々徳の高いお坊様がお住みになっていました。
その阿闍梨はある何某という養子でした。
その阿闍梨は学問修行の評判が高く、人々は香や蝋燭を納め帰依していたのです
一年ほど,阿闍梨は越の国へ灌頂の戒師に迎えられ留まりました。
そして、阿闍梨は美童を連れて戻ってきました。
美童は阿闍梨の寝起きの世話をしました。
美童の美しさを深く愛した阿闍梨は、日々の勤めがおろそかになってきました。
四月のころです、美童は病気になり、阿闍梨は回復を一途に願いましたが、思いは届かずに美童は死んでしまったのです。
阿闍梨は、ふところの璧を奪われ、挿頭の花を風にさそわれた思いにかられたのです。
涙も枯れ、声も出なくなるまで嘆いたのでした。
「なぜお前は私をおいていくのだ。お前がいない明日が来るのが地獄のどんな責め苦よりも辛く恐ろしい」
阿闍梨は美童の顔を見つめ言いました。
「助けておくれ、助けておくれ。お前がいないというこの地獄から私を救っておくれ」
阿闍梨は美童の手を取り言いました。
美童の手を握っていたのは、阿闍梨ではなく、阿闍梨の姿をした何かだったのかもしれません。
阿闍梨は美童を荼毘に付すことも土に埋めることもせず、飾るように寺に置いておいたのでした。
「愛おしい愛おしい、死体のお前がこの世の誰よりも、愛おしく美しい。ただただお前が愛おしい」
阿闍梨はそう言いながら、美童の頬を撫で、生前と同じようにまぐわいをしました。
阿闍梨は美童の傍で顔と顔を重ね、手に手を取り過ごしました。
美童の肉が腐りただれる姿を悲しみ、
お前はこの世で最も美しいと囁き、
ただれた肉をすすり、
むき出しとなった骨を舐め、
生前と同じようにまぐわいをし、
食いつくし、
鬼となりました。
阿闍梨は鬼となりました。
美童食って鬼となりました。
「住職が鬼になってしまわれた」
寺の者たちは変わり果てた住職の姿を見て、恐ろしくなり逃げ去ったのでした。
鬼になった阿闍梨は、里に下りてくるようになりました。
人々を驚かせるだけでなく、墓を暴き、まだ生々しい屍を食ったのです。
物語の住人と思われた鬼を現実に目にした人々は、ただ怯えることしかできなかったのです。
この話は国中に知れ、今では通る者さえ少なくなりました。
話を聞き、快庵は、
「美童に出会わなければよい阿闍梨であったであろうに、不幸にも愛欲の迷路に迷い、無明の業火で鬼になってしまった」
そう言って悲しんだのでした。
聞き伝える昔の話でございます
雨月物語の青頭巾の最初の部分からです。
続きは
子供の日ですよ。
なので、お坊さんと子供の深い絆のお話です。
まぐわいは目合ひで
見つめ合うことと
三省堂の用例1に書いてありました。
目と目で見つめあうですね
用例2はなぜか言葉が難しくて私には読めませんでした。
ふしぎ
この話は青頭巾という話の最初の部分です。
鬼がなぜ現れたかの話を聞き、
鬼とは本来何かを語り、
鬼を救うという話です。
鬼がなぜ現れるようになったのかの部分です。
雨月物語は長いのです。
※基本的に聞き伝えるという形で、大筋は変えずに思うままに書いております。