伝聞昔話「子捨て」(小泉八雲より)
伝聞昔話「子捨て」
その百姓はとても貧しかったのです。
自分たちが食べていくだけでいっぱいでした。
女房が子供を産みました。
捨てました。
女房と自分の子を川に捨てました。
貧しかったので、女房が産むたびに川に捨てました。
何人も捨てているうちに、少しずつでしたが生活が楽になってきました。
「生活に少し余裕もできたし、自分たちの面倒を見る子供もいる。この子は育でようと思う」
百姓はそう言って、その子供を育てたのでした。
何人も子供を捨てていましたが、育てている子には人並みに愛情がありました。
夏のある夜です。
百姓は子供と満月を眺めていました。
子供は五月ほどたっていました。
「いい夜だ。美しい月だ。お前も大きくなったら月の美しさがわかるだろう」
百姓は子供に言いました。
すると、
「ああ、良い月だ。この美しい月を見るとお前さんが私を捨てた晩を思い出す」
子供はまだ赤ん坊でしたが、はっきりと言ったのでした。
百姓はおどろきました。
「苦しかったな。恐ろしかったな。言葉ではあらわせることができないな」
子供はにやにや笑いながら言いました。
そして、子供はさっきの言葉がうそのように赤ん坊らしく話さなくなったのでした。
百姓は涙が止まりませんでした。
恐ろしかったのか、罪が重すぎたのか、その時は分かりませんでした。
いえ、一生わからないでしょう。
そして、百姓をやめて、出家をしたのでした。
聞き伝える昔の話でございます
小泉八雲より。
※基本的に聞き伝えるという形で、大筋は変えずに思うままに書いております。