怪談「徒然草子」

徒然なるままに、きいぼうどと心にまかせて、古典狂の怪談童話創作家の結果的にここだけの怪しいかもしれない話

赤い鹿

  赤い鹿

 

 宝玉のように美しい赤い鹿がいました。

 その鹿は人を恐れ、山の深い所で暮らしていました。

 ある日、鹿は革でおぼれている人間を助けました。

「ご恩にたいしてお返しがしたいのです。何がお望みですか」

 男が言うと、

「私のことを話さないでください。それだけで充分です」

 鹿は答えました。

「わかりました、絶対に話しません」

 男はそう言って山を下りました。

 そして、狩人をやとって赤い鹿を狩ったのでした。

 男は赤い鹿の革と角を貴族に渡しました。

 貴族は男に金とえらい役人の地位を与えたのです。

 しばらくして、貴族の国では大きな火の玉を見るものがあらわれました。

 火の玉は何度もあらわれ、多くの者が見たのでした。

 人々は火の玉におびえました。

 ある日、子供が火の玉に近づきました。

「革と角を返してくれ、それだけでいい」

 子供がそう言いました。

 人々は悩みました。

「火の玉の革ってなんだ。火の玉の角ってなんだ」

 皆で考えましたが答えが出ません。

 話はえらい役人になった男の所まで届きました。

男はおびえました。

「あの火の玉は鹿だろう。変わった鹿だったがまさか火の玉に化けて出るとは」

 男はそう言うと恐怖と自分の行いがはずかしさから泣いたのでした。

 次の晩です、男は貴族の所へ行くことにしました。

 男が家を出ると、火の玉がいました。

「革と角」

 火の玉はそう言いました。

 男は貴族の家まで走りました。

 火の玉は男を追いかけました。

 火の玉は男なら何か知っているだろうと思ったのです。

 男は火の玉に追われながら、貴族の家に行きました。

「革と角」

 火の玉は言いました。

 そして火の玉は鹿になったのです。

 赤い鹿になったのです。

「死ぬこともまともにできないものの言うことなど聞かぬ。革と角は私の物だ」

 貴族は言いました。

「かなしい、あぁかなしい。だが言うとおりだな」

 鹿はそう言うと雲のように消えたのでした。

 それいこう、火の玉の姿を見たものはいませんでした。

 二十年たちました、貴族の所に赤い髪の若者がきました。

 若者は貴族でした。

 美しく頭の良い若者は恐ろしいはやさで出世していました。

 そしてその若者は貴族から国をうばったのです。

「革と角を返してもらう」

 若者は貴族に言いました。